

世界市場への新たな布石
2000-2003
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信越半導体白河工場に新設された300mmウエハー棟
本章第Ⅰ節で触れたように2000(平成12)年7月、信越半導体は300mmウエハーの量産化を対外発表した。計画どおりに信越半導体白河工場は生産設備の設置を進め、2001年2月に月産2万枚で量産を開始した。
2000年4月、半導体事業部の報告を受けた金川社長は、「半導体事業の最大の課題は300mmウエハーの立ち上げ時期と、(回路線幅)0.13μmという次世代に対応した品質の早期達成」と述べた。半導体の市場は急速かつ大幅に変化しており、設備投資には極めて綿密な状況判断を要した。
2001年に入ると、米国を中心に続いてきたIT景気が急速に下降線をたどり、2001年の半導体デバイスの出荷量は前年を大幅に下回った。これにともないシリコンウエハー市場も大きく落ち込み、当社も2001年年初からシリコンウエハー販売量の減少を余儀なくされた。このようななかで、当社は300mmウエハーの販売拡大によって、この落ち込みを補う方針をとった。景気回復後、300mmウエハーは競争がますます激しくなると予想されたため、先んじて市場を確保することを目指した。白河工場では、300mmウエハー生産ラインの増強を迅速に進めた。2001年5月には月産5万枚、2003年3月には月産10万枚へと生産能力を高めた。
また、信越半導体では300mmEPWの生産設備を磯部工場に建設し、2000年8月から生産していたが、2001年7月から、この設備の白河工場への移設を開始し、2002年1月、白河工場で300mmEPWの量産を開始した。信越半導体は300mmEPWにおいても、いち早く量産化に取り組みシェア確保を図った。
これら一連の生産ライン建設や増強においては、市場の変化に迅速に対応するために工期の短縮が求められた。工事の実施が決まると、工場は文字どおり突貫工事で設備増強を進めた。

熱処理ウエハー進出の記者会見(2000年11月)
シリコンウエハー市場では2000年以降、価格競争が顕著になった。このような市場環境のなかで、信越半導体グループは高品質化による非価格競争力の確保に力を注ぎ、価格競争に巻き込まれずに半導体シリコン事業を強化する方針を堅持した。
ICチップは常にチップサイズの縮小が求められており、そのためチップに書き込む回路の線幅を決めるデザインルールも、2000年以降、0.18μmから0.15μm、さらに0.13μmへと形勢は微細化に進んでいた。同時に、チップの歩留まりを高めるため、ゲッタリング技術(ウエハーの内部に金属不純物を吸着する「ゲッタリング層」をつくる技術)の向上も求められた。
2000年11月、信越半導体は熱処理ウエハーへの本格進出を対外発表した。熱処理ウエハーとは、シリコンウエハーを熱処理してゲッタリング能力を高め、ウエハー表面の欠陥を減らしたものである。信越半導体は独自の技術でアルゴンガスを用いた熱処理ウエハー「IG-NANA」の開発に成功していた。
IG-NANAの名は、IntrinsicGettering(内部ゲッタリング)と窒素の原子番号〔7〕に由来するもので、単結晶の製造時に微量の窒素を添加して、シリコンウエハー内部にゲッタリング層を形成する技術を表している。ゲッタリング能力を左右するシリコンウエハー内の酸素析出核の大きさや量、およびその分布を決める窒素の量を制御することが、この技術のポイントとなった。
IG-NANAはEPWよりも低価格で、かつEPWをしのぐ特性を発揮する可能性を秘めたウエハーであった。信越半導体は1999年からIG-NANAのサンプル出荷を開始し、2000年から本格生産を開始して、150mm径から300mm径までの品種を揃えた。その後、磯部工場で行っていたIG-NANAの生産は、2002年5月に三益半導体工業に移管された。三益半導体工業は2003年7月、IG-NANAの月産10万枚の生産体制を確立した。
なお2000年11月には、東芝セラミックス(現・コバレントマテリアル)が生産、販売する水素処理ウエハーのセカンドベンダー(需要家が安定供給を確保するために選定する第2の供給者)を引き受けることを発表した。水素処理ウエハーは、シリコンウエハーを水素中で熱処理してゲッタリング能力を高めたものである。その市場拡大のためには安定供給体制を構築する必要があり、需要家からはセカンドベンダーの確保が求められていた。信越半導体はこうした要望を踏まえて、水素処理ウエハーのセカンドベンダーとなることを決め、東芝セラミックスと契約を交わした。
信越半導体は1990年代後半から経営の効率化と体質強化に取り組んできたが、2000年以降も引き続き強固な経営体質づくりに力を注いだ。その第1の課題は、300mmウエハーの量産化と微細化に対応した付加価値の向上によって、収益力をいっそう高めることであったが、さらには生産拠点の集約も進めた。300mmウエハーの量産化はすでに述べたとおりであるが、微細化に対応した付加価値の向上については、回路線幅0.13μm以下に対応する平坦度、パーティクル、不純物など、ウエハー表面の品質向上を図った。
また、結晶中の微小欠陥を極力低減させた「NPC(NearlyPerfectCrystal)」の販売拡大を図り、世界トップシェアの確保とさらなるシェア向上を目指した。NearlyPerfectCrystalとは、完全結晶を目指す信越半導体の技術者の謙虚さによる命名であった。
生産拠点の見直しでは、6インチ以下のCZ法単結晶の生産を武生工場に集約し、8インチ以下のウエハー加工はSEHマレーシアと加工3社(直江津電子工業、長野電子工業、三益半導体工業)へ集約した。さらにSEHマレーシアは2002年8月、8インチウエハーの生産能力を、それまでの月産24万枚から月産30万枚に増強した。
一方、FZ法単結晶の生産を行う犀潟工場では、2001年3月に結晶加工棟が完成した。これにより、FZ法単結晶生産の大幅な効率化と能力増強が実現した。この結晶加工棟では自動倉庫の増設、検査設備の移設も実施され、FZ法単結晶工場としての機能が充実した。

SEH台湾
グループの一大拠点に成長していた。1990年代末はシリコンサイクルの影響もあって苦戦を強いられたが、2000年に入るとほぼフル生産となって業績を好転させた。これには米国市場におけるシリコンウエハーの需要増大に加え、同社の販売拡大と価格適正化の努力が貢献していた。
2001年は米国の半導体デバイス市場が急速に縮小したため、シリコンウエハー市場も大きく落ち込み、2001年8月の米国のシリコンウエハー市場は、数量ベースで2000年10月のピーク時の約半分となった。このような厳しい経営環境下で、SEHアメリカは事業の再構築に取り組んだ。これは、生産の統合、品質の向上、組織の簡素化、製造原価の低減を骨子としたものであった。
2002年になると一転してシリコンウエハーの需要は上昇に転じたが、その回復状況には製品分野や企業ごとに格差が生じた。2003年に入るとパソコン、携帯電話、デジタル家電などの分野が堅調に推移したため、主力の8インチウエハー出荷量は順調に拡大した。
このような環境下でSEHアメリカは、販路の拡大などに取り組み増収を実現するとともに、合理化努力によって財務体質を強化した。しかし、1990年代後半の設備投資が依然として大きな負担となり、同社の優れた技術力を最大限に生かして業績向上を図るには、さらに一段の営業力の強化と合理化によって、企業体質を強化することが課題となった。
SEHヨーロッパは半導体市場の大きな変動のなかにあって、2000年以降、着実に利益率を高めた。同社は、直江津電子工業からの技術支援もあり、製造原価を削減し、販売直接費や一般管理費の合理化も進めて、財務体質を大きく改善させた。
アジア地域では2000年以降も市場規模が着実に拡大しており、アジア地域における優位性の確保は、シリコンウエハーの国際展開において極めて重要な課題であった。
このような情勢を踏まえて信越半導体は、1999年前半から、長野電子工業の技術支援によるSEHマレーシアの技術力強化を進めた。2000年2月、SEHマレーシアの報告に際して小柳信越半導体社長は、「長野電子工業に大変熱心に指導していただき、非常に大きな効果を上げた。歩留まりは大きく向上し、原価も非常に安くなり、加工単価では信越半導体グループのなかでもナンバーワンとなった」と述べ、この取り組みを高く評価した。
さらにSEHマレーシアは、前述の8インチおよび6インチ以下のウエハーの生産集約化に対応し、2002年以降、8インチウエハーの生産能力増強を進めた。当時すでに国内の加工3社はフル生産の状態にあり、コストなどの観点から、SEHマレーシアで増強投資を行うのが最適と判断されたためであった。
SEHマレーシアは世界でトップクラスの8インチウエハー生産能力を擁していたが、この増強によって、その地位をさらに強固なものとした。同社は国際競争力に優れたコストと品質を背景に、需要の回復期を捉えて台湾、韓国、米国などに出荷を伸ばし、工場はフル生産となった。
SEH台湾は、成長を続ける台湾市場における信越半導体グループの拠点として、業績を順調に伸長させた。自社生産による8インチウエハーのほか、信越半導体グループの国内工場で生産された300mmウエハー、回路線幅0.13μm以下対応の高品位ウエハー、NPC、IG-NANAといった高付加価値品の販売拠点として、大きな役割を担うようになった。SEH台湾では、自社工場のフル生産と歩留まり向上に努めるとともに、台湾での300mmウエハーの販売拡大に積極的に取り組んだ。
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